ブラックな清掃業界の現実
急速に成長していたベンチャー清掃業の実態
私は今の会社の前、清掃業の会社に勤めていました。2回目の転職で入社した会社です。売上が急成長していたベンチャー企業で、将来性に期待して応募し、採用が叶いました。
ですが、このベンチャー企業、実際に入社して中から見てみると、基本的なことすら構築されていない、問題がありまくりの会社でした。
40代後半へ鞭打つような、肉体労働の日々
特にひどいと感じたのは、社員の扱いに関してです。とにかく手が足りない状況だったため、後先を考えず、ある程度の人材だったら、入社させるような状況。そこに計画性は皆無でした。
私は、清掃作業員とした入社したわけではなかったのですが、まずは現場の作業を覚えてもらう、とのことで1ヶ月半ほど研修を受け、さらに、その後数か月先輩と同行し、現場の作業を続けていました。
私は清掃業界自体には、20年以上の経験があります。実際に清掃作業をする部署ではありませんでしたが、現場を知ることも大事だという認識がありましたので、体力的にはかなりキツイ状況でしたが、なんとか耐えて日々の仕事をこなしていました。
いつまで現場作業が続くんだろう、との不安は多々ありました。ですが、40代後半の人間を中途で採用し、いつまでも現場作業をさせ続ける訳はないだろうと思っていました。
その考えの間違いに気づくのは、もう少し後のことでした。
その日は、台風が迫っていた
素人同然の私に出た、とんでもない指示
そんな頃です。どうしても今日中にこなさなくてはいけない清掃現場に、人の都合がつかないことがあり、私に白羽の矢が立ちました。私は夏に入社しましたので、まだ入社3ヶ月の頃です。
さらにその日は、台風が迫っていて、夜に雨風のピークを迎える、という状況でした。
現場で先輩と作業をしている中、お昼頃に連絡がありました。ひとりで本社へ帰るよう言われ、戻ってみると、道具一式と現場のカギ、住所を渡され、今日中にこの2件の清掃作業を完了させろ、との命令です。
作業の内容は、空室清掃です。退去したあとのマンションなどの空き部屋の清掃をし、次の人が入居できる状態にする、という、清掃業界でも末端の仕事です。
空室清掃は、誰にも会わずにできる仕事で、それを専門でやる人を「洗い屋」などと呼ぶことあります。税金も払っていないような、モグリの地元の個人事業主が、格安でこの仕事を受け、日々をなんとか食べているとも言われています。清掃業界では、値崩れが激しい、割の悪い末端の仕事です。
当時の私は、その作業を先輩に数回同行し、おこなったことがある程度。そんな私にまかせるわけです。完全にやっつけです。空室清掃は誰も見ていないですからね。それをいいことに、なんと適当なことか。
台風が近づく中、ずぶ濡れで現場へ
そして、天候は雨。しかも台風が向かってきている状況。
その空室清掃は、ベットのシーツも変えることが含まれており、清掃用具だけでなく、シーツや枕カバーなども持っていく必要があります。
急な指示のため、ろくな準備もできず、必要な道具は本社にあった厚手の紙袋の中へ突っ込み、空いている社用車もないため、電車で現場へ向かいました。
ですが、台風接近の雨風の中、ほんの10分程度の駅までの道のりで、重い洗剤などの道具や、シーツがはいった紙袋は、底が破れてしまい、中身がぶちまけられ、シーツが泥まみれになってしまいました。
仕方なく本社へ戻り、再度準備のし直しです。探しても、濡れても大丈夫な耐久性のある袋はなく、仕方なく紙袋を2重にした中に、新しいシーツを入れて、再度出発しました。
それでも1件目に到着する頃には、またしても底が破れてしまい、どうしようもないので、両手で抱えて、シーツが雨に濡れないように、体で覆いかぶさるようにして、シーツに傘を差して歩きました。
当然自分はびしょ濡れです。
ようやくついた現場で、3時間の孤独な作業
ようやく着いた部屋は板橋区のワンルーム。手慣れたベテランなら、1時間から1時間半程度で終わる作業です。
ですが、こっちは清掃業界にいたとはいえ、実際に掃除をする部署にいたことはありません。まだ入社3ヶ月の、完全に初心者です。
それでも、任されたからにはできる限りやらねばと、清掃個所のチェック表を見ながら、同行して作業していたときののことを思い出し、なんとかこなしました。都内の狭いワンルームひとつに、3時間かかりました。
既に時間は夕方。でも、現場はもう一ヵ所あります。次の現場へ移動です。袋から落ちないように、また両手でシーツや道具を抱え、強風、大雨の中、傘もろくに差せずに駅まで歩きます。
2件目についた頃には、もはや疲労困憊です。もうどうとでもなれという気持ちでしたが、最低限の作業は終わらせなければと、ただただ黙々と作業をこなしていきました。
キッチンのシンクを研磨剤で擦り、五徳や換気扇の油汚れを落とし、お風呂の水垢を一生懸命こすり、トイレの便器内に手を突っ込んで磨き、カーテンレールの上を拭き、部屋の掃除機掛けをし、エアコンのフィルターを掃除機で吸い、洗濯機のゴミ取りネットをキレイにし、掃除機のパックを変え。。。ロボットのように作業をこなしていきました。
「こちらの作業が終わり次第向かう」と言っていた、上司が来たのは、夜の10時過ぎでした。その後2人で作業を終わらせ、解放されたのが11時過ぎです。
車両できた上司が、荷物は持って帰ってくれるとのことで、直帰していいことになり、なんとか終電に間に合い、自宅に戻ることはできました。
そのときの年下の上司の一言です。「台風きてたんですね。」 本気で今まで知らなかったようです。
上司とはいえ、ただの作業員です。そりゃあ、毎朝早くから、夜中まで掃除だけをしているような生活をしていたら、天気予報すら見る時間はないんでしょう。
清掃業界の現実、ほしいのは現場の作業員
体力的に追い詰められる生活
この会社。その後も、人の都合がつかない現場作業は後を絶ちませんでした。
通常の業務が完了してから、追加で作業が入るなんて、日常茶飯事です。各人それぞれの現場が終わり次第、次の現場へ集合。なんて指示が日々出ました。
朝9時から夕方5時まで、体を使って清掃作業を終わらせたあとに、また別の現場へ行くわけです。
私は年齢の高い新人ということもあり、いつも終電にあわせて、帰らせてもらっていましたが、先輩たちは、翌朝の5時まで作業をすることもありました。
私の同期に、50台半ばの方もいたんですが、彼がいつ倒れるか本気で心配していました。いや、本音を言えば、倒れるくらいしてくれて、会社が考えを変えてくれないか、期待している自分がいたのも事実です。
体を使う仕事で、体力は限界。毎日終電近い帰宅。駅のホームで、線路を見ると、「楽になれるのかな」と、吸い込まれそうになるような幻覚まで感じ、3度目の転職活動をはじめました。
ブラックベンチャー企業のその後
こんな状況では、体がもたないのと、無茶な拡大路線の経営が行き詰まる兆候を感じ、3回目の転職活動をはじめ、通勤も近くて楽な会社に転職することができました。
いまは落ち着いた生活を送っています。1社目に比べれば、収入はかなり下がりましたが、騙されて入った倉庫業の2社目、今お話した清掃業の3社目よりは年収も上がり、残業皆無の職場で、毎日家族で夕食の食卓を囲むことができる生活をしています。
転職成功の要因は、2回の転職失敗、2社のブラック企業へ入社してしまった反省を活かした。これにつきると思います。
ちなみに、このブラック清掃業ですが、私が辞めた半年後に、資金繰りの悪化から、社員の80%をリストラすることとなりました。1年で50名まで増えた社員が、その1年後に、10数名まで戻ったわけです。
派手な広告を打ち、次々と依頼を受けておきながら、社内の体制の都合で、半数近くを断るようなことをしていたんですから。こんな外面だけの、中身のない会社が、伸び続けていけるわけがないのは当然です。
清掃業界の本音をしっかり見極める
こうして今お話していても、当時を思い出し、本当に吐き気をもよおすような嫌な気分になります。
当時は、なんとか収入を、家族を守らねば、と気力だけで続けていましたが、体を壊しては元も子もありません。
たった1年前のことですが、もう一度こんなことできる気が、今はまったくしません。この1年で、急激に体力が衰えた気がします。いまだにそれ以前の体調に戻りません。
体力は消耗品なんだということを実感します。やはり無理をすると、その後に反動がくるんだと思います。
清掃業の求人に応募を考えているあなた。
「40代でも歓迎」 、「簡単な作業」、「誰でもできる」、なんていう清掃の仕事の求人。実際の仕事内容をよく調べてくださいね。
「40代でも歓迎」=「募集しても若い人はこない」 、「簡単な作業」=「を朝から夜までぶっ通しでやる」、「誰でもできる」=「給料は上がらない」ですからね。
清掃業界がほしい人材は、ただの現場の作業員です。
実際におこなうリアルな作業を、しっかり確認してから決断するようにしてください。
コメント
大手の企業、工務店は空室清掃にそれなりの金額を出していると思います。
下請け、、その下の下請け、、と清掃すらしない会社がある程度の金額を抜き最後の清掃業者に仕事が回ってくる頃にはかなり安価になっています。
そして下請けは企業の顔を潰す訳にはいかないので清掃者には厳しいです。
本当に磨きあげて綺麗な部屋にしてるのは清掃業者です。
そこにしっかりと妥当な金額がいくようになる事を願います。